天国への道

愛を持って、自分の頭で考え、行動していきましょう

天国で③

 さて、私が転生するにあたり、先生と面談を行いました。どんな人生にしたいか、先生は私に聞きました。私は「本当の愛が知りたい」と答えました。

 先生との話が終わって教室に戻ると、数人のクラスメイトが私のもとにやってきました。彼らは口々に「私たちは愛を知っているからここにいる」と言って私を諭しました。私が以前、天国に行くための最低条件は愛を知っていることだと書いたのはこのためです。彼らの親切には感謝しています。彼らは私の人生を無駄にしないよう、より良い人生を送れるように気に掛けてくれているのがわかりました。しかし、こう言ったのには理由がありました。私はそれまでの人生で結婚したことがなく、覚えている限りでは、最後の人生に於いて以外は家族の愛すらまともに受けていませんでした。色恋沙汰にも勿論興味はありましたが、何より真実の愛というものを次の人生で見つけたかったのです。

 私は愛というものが本当に全く分かっていませんでした。真実の愛というものは無償で、地上ではそこら中に転がっているものだとばかり考えていました。無から愛が生じるものだと思っていました。優しい両親に恵まれ、良い環境で育てば、自然に愛は与えられてしかるべきものだと考えていました。実際はそうでないことは、みなさんご存じの通りです。

 私には天国で懇意にしている美しい女性がいました。彼女は当然、一緒に転生するものと考えていました。一緒に転生して、地上で愛を育む、それが正しいやり方でした。しかし、私はそれを拒否しました。天国で既に与えられている愛ではなく、一から育んだ、無から生じるような愛を望んでいたのです。それを知りたかったのです。彼女は反対しましたが、私は押し通しました。結局、彼女は折れてくれました。愚かなことをしたと後悔するばかりです。

 また、地上での快楽を斡旋してくる人間もいました。彼にお願いすると地上にいる何者かに話を通して、肉体的な快楽を与えてくれるようにしてくれるということでした。私はこれを危険だと考え、先生に話しました。先生は問題ないと言いました。理由も話してくれたかと思うのですが、忘れてしまいました。それでも結局、私はこの申し出を断りました。魂を汚したくなかったのです。もっとも、後に私の魂はその程度のことなど誤差と思えるくらい、ひどい状態に追い込まれるのですが。

 さて、私の第一目標は決まりました。そして次に、私は天国で受けた授業を思い出しながら考えました。今のこの社会情勢、このまま普通に転生を繰り返しても魂を向上させることはできない。一つの大きな事故ですべて覆って天国に戻れなくなってしまう。普通に転生を繰り返すのはリスクが高すぎる。これから先は自由もなくなり、格差は開き、普通の人間にチャンスなど来ない時代がやってくる。ならばどうするか? 現世で何らかの大きな功績を立てて、一気に上の天国に行って、より良いところに生まれるようにするしかない。功績にはいろいろありますが、私はその中で科学技術の発展に関する功績を選びました。他の功績は利権や縁故などが絡んでいて、とても自分にできるとは思えませんでした。

 私は一人の人間に白羽の矢を立てました。その人物は眼鏡を持っています。この眼鏡を持っている人間は、転生したときに優れた頭脳を有し、稀代の発明や研究結果を出せます。彼は他の天国にいるのがわかっていました。私は彼に会いに行くことにしました。眼鏡を貸してもらうために。