天国への道

愛を持って、自分の頭で考え、行動していきましょう

天国で④

 眼鏡の持ち主は他の天国にいます。私が彼に会いに行くことを仲間に話すと、そのうちの一人が反対しました。曰く、彼も昔私と同じように眼鏡を借りようとしましたが、その人物は約束を違えて眼鏡を貸さず、それどころかそのせいで彼はひどい目にあったというのです。私は彼の忠告を受けて尚、眼鏡を借りる決断を崩しませんでした(愚かなことです)。それでも彼の有難い忠告を受けて、私は眼鏡の持ち主に対して十分に用心することにしました。

 さて、私は数人の仲間を伴って眼鏡の持ち主のもとに行きました。眼鏡の持ち主は背の高く太った人相の悪い男でした。私が眼鏡を貸してほしい旨を伝えると、彼はこう言いました。自分はもう眼鏡を使うつもりはないから譲渡してもいい、ただしその前に自分の好きな人生を体験させて欲しい。つまり、私の力を使って自分に好き放題の人生を送らせろ、ということです。私は少し迷いましたが、了承しました。私はその後も何度も彼のもとに通い、様々なケースを想定して約束事を決めました。そして彼は転生しました。

 彼が転生して物心ついたころ、私は他の数人を伴って彼の夢に出て、私が彼に好きな人生を送らせるためにいることを告げました。彼が小学生くらいの頃は、とにかく天気を変えさせられました。彼は仲間に自分が選ばれた人間であることを吹聴し、その証拠として天気を私に変えさせるのです。これには参りました。力がいくらあっても足りない。私は再度彼の夢に出て、天気を変えるのには彼の想像以上に力が要ること、力を使い果たせば私はしばらく休まねばならないこと、私が休んでいる間は奇跡を起こせないことを話しました。実際その時、私には力がほとんど残っていませんでした。彼は私の話をよく聞いてくれて、その後は彼の友達にその話をし、天気を無理に変えさせるようなことは慎むようになりました。

 もともと私は彼を好きではありませんでした。天国にいたのが信じられないくらい彼は性格が悪かった、高慢で他者を顧みない。彼が天国にいたのは、昔の眼鏡の持ち主のお陰だとしか思えませんでした。それでも私は自分の目的のために彼に尽くしました。

 彼が20歳後半の頃です。力を使い果たして休んでいる私のもとに、彼の仲間がやってきました。彼らについていくと、彼は恋をしていました。いや、恋というよりも邪悪な、肉欲よりももっと汚らわしい感情を彼は抱いていました。あんなおぞましい感情には天国でお目にかかったことはない。彼の視線の先には仲睦まじい男女がいました。どちらも天国の出身で、転生するたびに二人はああやって人生を共にしているのがわかりました。

 彼の仲間は言いました。「彼の願いを叶えて欲しい」

「あの二人を引き裂けというのか!」私は怒鳴りました。「あの二人はずっとああして愛し合ってきたんだろう、あれを引き裂くなんて私にはできない!」

「でも、これに関してはやってくれと彼に言われています」彼の仲間が返しました。

「冗談じゃない!」私は踵を返しました。「なら君たちが勝手にやればいいだろう! 私はやらない!」そのまま私はその場を後にしました。

 私たちの間で交わされた約束には、倫理的に問題のある行為については私は力を行使しない、というものがありました。私はこのことについては大いに倫理的な問題があると考えました。だから、彼との約束を違えたことにはならないはずです。

 結局しばらくして、彼の仲間が再度私のもとを訪れて、違う人でいいから結婚させて欲しいと言ってきました。私は彼らを諫めながら、彼に相応しい伴侶と彼を繋げました。彼がお金に困っているとき、宝くじを当てて欲しいと言ってきたので当ててあげました。その時には彼への嫌悪が高まっていたので本気を出せていたかどうかは怪しいですが、それでも2等を当てました。あの感じからしておそらく1等は無理だったと思います。

 ほどなくして彼の人生が終わりを迎え、彼が天国へ帰ってきました。帰ってきた彼は何もない虚空を見つめていました。私は彼が人生の余韻に浸っているのだと考えました。

「どうだ、いい人生だっただろう?」私は彼に声を掛けました。いい人生だったはずです。良い伴侶に出会い、家庭を築き、幸せな人生だったはずでした。

「ああ」彼は虚空を見つめたまま、そう返しました。

 結局彼はああだこうだ理由をつけて眼鏡を渡しませんでした。私が転生した後に渡す、失くすといけないから、そんな話だったと思います。そして私は、仲間の言ったとおり、彼にひどい目にあわされることとなります。

 

 利害関係云々あるとしても、こういう人間には関わらないことです。関わった時点で災厄に巻き込まれます。どうしようもないことも多々あるでしょうが、少なくとも自分から歩み寄っていくのはやめることです。