天国への道

愛を持って、自分の頭で考え、行動していきましょう

天国で⑥

 転生先が決まり、私は自分を補助してくれるグループの人員を選びました。人員は少なめにしました。10人程度だったと思います。自分で人生を切り開きたかったからなのか何なのか。愚かなことだと思います。その分、この人員は自分が本当に信頼している人たちだけでした。

 ここで私はさらに愚かなことをします。20歳を過ぎるまで、私の人生に手を出さないでほしいと頼んだのです。見守ることすら不要だと言いました。父母が十分に私を助けてくれるはずだと考えていましたし、何より真実の愛を得るために一切の助力が欲しくなかったのです。先にも言ったとおり、私は愛について全く分かっていなかったのですから。そしてもう一つ、私は彼らの声を聴きたかった。そのためには、一生を通じて彼らに見守ってもらうのではなく、ある程度の期間集中して守ってもらう必要がありました。彼らも常に私に声を届けるのは大変だということです。

 本当なら、20歳までの間こそ、彼らに守ってもらうべきだったと思います。そこまで十分に守ってもらえば、後の人生で困ったことがあっても乗り越えられたでしょう。ここを間違えたばかりに、20歳になるころには私はもうボロボロになっていました。

 そして、私はもう一つ彼らにお願いしました。40歳を過ぎてまだ結婚していなかったら、それは私が危機的状況にあるということだから、全力で助けて欲しいと。しかしボロボロになってしまった私は考え方も歪み、人として尊敬できるものではなくなってしまいました。多くの者が私のもとから離れ、彼らの話によれば私を見ることすら今では禁止されているらしいです。それでも見守ってくれて尽力してくれる人がほんの一握りでもいることに感謝しています。しかしながら、全力で助けるといってもそれ自体がもうかなり難しい状況です。

 

 さて、こうして私は転生することになりました。すべての準備が整い、私は地上に光の柱のように降りてゆきました。地上が恐ろしく暗かったのを覚えています。周りを見ると、私と同じように地上に降りてゆく人々が見えます。ふと上空を見ると、私たちと人生を共にするために天使が降りてきて、一人また一人と私たちに融合していきます。私のもとにも天使が来ました。いつかの、前の人生を私と共に過ごした天使です。私は迷いました。天使が共に来てくれるのは有り難い、とても光栄なことです。しかしながら、私はこの人生で「不幸になる」と先生から告げられています。そんな人生に彼を付き合わせて良いものだろうか? 私は彼に説明しようとしました。すると彼からわずかに怒りの波動が感じられました。そして半ば強引に、彼は私と融合しました。

天国で⑤

 天国での準備は整いました、少なくとも私はそう考えていました。あとは転生先を探すだけ。眼鏡の件で使い果たしてしまった力を再度貯めながら、私は転生先を探しました。ちなみにこの頃は、転生先の国として中国が持て囃されていました。私も誘われました。「これからは中国だ、必ず発展するよ」そう言う人たちの言葉に心が動かなかったわけではありませんでしたが、私は日本が良かったので断りました。

 私たちの天国はそう上位にあるわけではないので、そこまで良い所に転生できるわけではありませんでした。飽くまで一般階級の少し暮らし向きが良い所や、上流階級でも問題を抱えているところがほとんどだったと思います。そんな中でよい転生先はやはり、早い者勝ちの奪い合い、時にはコネが必要だったりして、競争は熾烈でした。そんな中で争っていては、もし負けた時には残りはよくない所ばかりになりかねない。私は問題を抱えていても自分の送りたい人生の叶うところを選ぶことにしました。

 ほどなくして、良さそうなところが見つかりました。そこは私の祖母に当たる人物が天国の人間で、父の性格上の問題が原因で家庭が破滅するのがわかっていました。しかし一方で、私がそこに生まれることで父母ともに加護を貰えて幸せになれるだろうと考えました。父母ともに私に愛を注いでくれるだろう、何より私は母が好きでした。生まれてくる自分の能力的にも問題がなさそうでした。生まれついての病気もない、健康な子供として誕生できそうでした。私はここに転生することに決めました。

 私は決めた転生先を先生に報告しました。

「あなたは不幸になる」先生は転生先を見るなり、こう私に告げました。

 私は先生に、父母ともに愛してくれるだろうこと、それを通して父親の性格も良くなるかもしれないこと、加護があれば破滅を避けられるかもしれないことなどを熱意をもって先生に伝えました。先生はわかってくれました。

 私が教室に戻ると、仲間たちが集まってきました。私は転生先のことを伝えました。すると、みな口々に反対しました。今考えれば当然かもしれません。もっと良い転生先はいくらでもあるのです。私は彼らに説得され、先生のもとに戻りました。

 私が転生先を変えたいというと、先生は言いました。

「さっきあなたはあれほど言ったではありませんか、なぜ変えるのです?」

 私が考えを変えた旨を告げると、先生は再び言いました。

「私はあなたが言ったことが間違っているとは思いません。ですが変えたいというなら変えればいいでしょう」

 私は再度転生先を探しましたが、案の定、もう良い所はほとんど取られていて、今私が選んでいる転生先が一番マシといった有様でした。私は失意のうちに先生のもとへ帰りました。

 私は見てきた現状を先生に伝えました。そして、

「もっと遠く、例えば宇宙の先には転生先はないのでしょうか?」と聞きました。

 先生は、あるにはあるが自分で見つけなければならない、そこへの道は整備されていない、危険を伴うものだ、といったことを教えてくれました。

 結局私は最初に決めた転生先に転生することにしました。

天国で④

 眼鏡の持ち主は他の天国にいます。私が彼に会いに行くことを仲間に話すと、そのうちの一人が反対しました。曰く、彼も昔私と同じように眼鏡を借りようとしましたが、その人物は約束を違えて眼鏡を貸さず、それどころかそのせいで彼はひどい目にあったというのです。私は彼の忠告を受けて尚、眼鏡を借りる決断を崩しませんでした(愚かなことです)。それでも彼の有難い忠告を受けて、私は眼鏡の持ち主に対して十分に用心することにしました。

 さて、私は数人の仲間を伴って眼鏡の持ち主のもとに行きました。眼鏡の持ち主は背の高く太った人相の悪い男でした。私が眼鏡を貸してほしい旨を伝えると、彼はこう言いました。自分はもう眼鏡を使うつもりはないから譲渡してもいい、ただしその前に自分の好きな人生を体験させて欲しい。つまり、私の力を使って自分に好き放題の人生を送らせろ、ということです。私は少し迷いましたが、了承しました。私はその後も何度も彼のもとに通い、様々なケースを想定して約束事を決めました。そして彼は転生しました。

 彼が転生して物心ついたころ、私は他の数人を伴って彼の夢に出て、私が彼に好きな人生を送らせるためにいることを告げました。彼が小学生くらいの頃は、とにかく天気を変えさせられました。彼は仲間に自分が選ばれた人間であることを吹聴し、その証拠として天気を私に変えさせるのです。これには参りました。力がいくらあっても足りない。私は再度彼の夢に出て、天気を変えるのには彼の想像以上に力が要ること、力を使い果たせば私はしばらく休まねばならないこと、私が休んでいる間は奇跡を起こせないことを話しました。実際その時、私には力がほとんど残っていませんでした。彼は私の話をよく聞いてくれて、その後は彼の友達にその話をし、天気を無理に変えさせるようなことは慎むようになりました。

 もともと私は彼を好きではありませんでした。天国にいたのが信じられないくらい彼は性格が悪かった、高慢で他者を顧みない。彼が天国にいたのは、昔の眼鏡の持ち主のお陰だとしか思えませんでした。それでも私は自分の目的のために彼に尽くしました。

 彼が20歳後半の頃です。力を使い果たして休んでいる私のもとに、彼の仲間がやってきました。彼らについていくと、彼は恋をしていました。いや、恋というよりも邪悪な、肉欲よりももっと汚らわしい感情を彼は抱いていました。あんなおぞましい感情には天国でお目にかかったことはない。彼の視線の先には仲睦まじい男女がいました。どちらも天国の出身で、転生するたびに二人はああやって人生を共にしているのがわかりました。

 彼の仲間は言いました。「彼の願いを叶えて欲しい」

「あの二人を引き裂けというのか!」私は怒鳴りました。「あの二人はずっとああして愛し合ってきたんだろう、あれを引き裂くなんて私にはできない!」

「でも、これに関してはやってくれと彼に言われています」彼の仲間が返しました。

「冗談じゃない!」私は踵を返しました。「なら君たちが勝手にやればいいだろう! 私はやらない!」そのまま私はその場を後にしました。

 私たちの間で交わされた約束には、倫理的に問題のある行為については私は力を行使しない、というものがありました。私はこのことについては大いに倫理的な問題があると考えました。だから、彼との約束を違えたことにはならないはずです。

 結局しばらくして、彼の仲間が再度私のもとを訪れて、違う人でいいから結婚させて欲しいと言ってきました。私は彼らを諫めながら、彼に相応しい伴侶と彼を繋げました。彼がお金に困っているとき、宝くじを当てて欲しいと言ってきたので当ててあげました。その時には彼への嫌悪が高まっていたので本気を出せていたかどうかは怪しいですが、それでも2等を当てました。あの感じからしておそらく1等は無理だったと思います。

 ほどなくして彼の人生が終わりを迎え、彼が天国へ帰ってきました。帰ってきた彼は何もない虚空を見つめていました。私は彼が人生の余韻に浸っているのだと考えました。

「どうだ、いい人生だっただろう?」私は彼に声を掛けました。いい人生だったはずです。良い伴侶に出会い、家庭を築き、幸せな人生だったはずでした。

「ああ」彼は虚空を見つめたまま、そう返しました。

 結局彼はああだこうだ理由をつけて眼鏡を渡しませんでした。私が転生した後に渡す、失くすといけないから、そんな話だったと思います。そして私は、仲間の言ったとおり、彼にひどい目にあわされることとなります。

 

 利害関係云々あるとしても、こういう人間には関わらないことです。関わった時点で災厄に巻き込まれます。どうしようもないことも多々あるでしょうが、少なくとも自分から歩み寄っていくのはやめることです。

天国で③

 さて、私が転生するにあたり、先生と面談を行いました。どんな人生にしたいか、先生は私に聞きました。私は「本当の愛が知りたい」と答えました。

 先生との話が終わって教室に戻ると、数人のクラスメイトが私のもとにやってきました。彼らは口々に「私たちは愛を知っているからここにいる」と言って私を諭しました。私が以前、天国に行くための最低条件は愛を知っていることだと書いたのはこのためです。彼らの親切には感謝しています。彼らは私の人生を無駄にしないよう、より良い人生を送れるように気に掛けてくれているのがわかりました。しかし、こう言ったのには理由がありました。私はそれまでの人生で結婚したことがなく、覚えている限りでは、最後の人生に於いて以外は家族の愛すらまともに受けていませんでした。色恋沙汰にも勿論興味はありましたが、何より真実の愛というものを次の人生で見つけたかったのです。

 私は愛というものが本当に全く分かっていませんでした。真実の愛というものは無償で、地上ではそこら中に転がっているものだとばかり考えていました。無から愛が生じるものだと思っていました。優しい両親に恵まれ、良い環境で育てば、自然に愛は与えられてしかるべきものだと考えていました。実際はそうでないことは、みなさんご存じの通りです。

 私には天国で懇意にしている美しい女性がいました。彼女は当然、一緒に転生するものと考えていました。一緒に転生して、地上で愛を育む、それが正しいやり方でした。しかし、私はそれを拒否しました。天国で既に与えられている愛ではなく、一から育んだ、無から生じるような愛を望んでいたのです。それを知りたかったのです。彼女は反対しましたが、私は押し通しました。結局、彼女は折れてくれました。愚かなことをしたと後悔するばかりです。

 また、地上での快楽を斡旋してくる人間もいました。彼にお願いすると地上にいる何者かに話を通して、肉体的な快楽を与えてくれるようにしてくれるということでした。私はこれを危険だと考え、先生に話しました。先生は問題ないと言いました。理由も話してくれたかと思うのですが、忘れてしまいました。それでも結局、私はこの申し出を断りました。魂を汚したくなかったのです。もっとも、後に私の魂はその程度のことなど誤差と思えるくらい、ひどい状態に追い込まれるのですが。

 さて、私の第一目標は決まりました。そして次に、私は天国で受けた授業を思い出しながら考えました。今のこの社会情勢、このまま普通に転生を繰り返しても魂を向上させることはできない。一つの大きな事故ですべて覆って天国に戻れなくなってしまう。普通に転生を繰り返すのはリスクが高すぎる。これから先は自由もなくなり、格差は開き、普通の人間にチャンスなど来ない時代がやってくる。ならばどうするか? 現世で何らかの大きな功績を立てて、一気に上の天国に行って、より良いところに生まれるようにするしかない。功績にはいろいろありますが、私はその中で科学技術の発展に関する功績を選びました。他の功績は利権や縁故などが絡んでいて、とても自分にできるとは思えませんでした。

 私は一人の人間に白羽の矢を立てました。その人物は眼鏡を持っています。この眼鏡を持っている人間は、転生したときに優れた頭脳を有し、稀代の発明や研究結果を出せます。彼は他の天国にいるのがわかっていました。私は彼に会いに行くことにしました。眼鏡を貸してもらうために。

天国で②

 私は天国で何人もの人たちの転生に立ち会いました。私は力が強かったので、あちこちから引っ張りだこでした。私は大抵補佐としてグループに入り、何か危険があったときには力のほとんどすべてを使って助けました。力も使っていくうちに成長して、最初は他の人と変わりませんでしたが、次第に強くなり、回復速度も増していきました。

 僕は他の人とは違った考え方を持っていました。他の人は転生者の選択を尊重して、その後転生者がひどい目にあってもよっぽどでない限り助けませんでした。しかし私は、転生者の選択如何に関わらず、その後に悔恨を齎しそうなひどい状況ならば助けるようにしていました。

 転生者はよっぽどのことがない限り、再び天国に戻ってきます。その人生によっては、天国に着くなり、人目を憚らず泣き出す者もいました。私に対して自分の過ごした人生の不出来を押し付けて恨む者もいました。さすがに他の人に諫められていましたが、これには私もびっくりしました。私は他のグループで転生者を見守っている最中で、彼には関係すらしていなかったからです。こういう人も天国にはいます。

 そんなこんなで私は天国でずっと暮らしていました。ある日、先生が私を呼び出しました。

「なぜ、転生しないのですか?」先生はおっしゃいました。

「力が溜まらないのです。何せ、見守っている間に力を使い果たしてしまうので」私は答えました。

 先生は、転生するチャンスを逃さないように、転生者を助けるのも大事ですが自分のことをもっと考えるように、と私を諭しました。私は今約束している転生者の守護を終えたら転生することを約束しました。

 幸いなことに、その時に私が受け持った転生者は、人生においてほとんど危険に合うことがありませんでした。私は数回、力の10%程度を使うだけで済み、転生者の人生が終わったときには力を十分に蓄えていました。私は先生に準備ができたことを告げました。

天国で①

 そんなわけで、私は運良く天国に昇ることができました。

 皆さんは、天国とはどのようなところだと想像しますか? 昔話で聞くような、何の苦しみもなく平和で幸せに満ちあふれた場所でしょうか? 

 

 まず、天国にはいくつかの階層があります。私は自分がどの階層に属しているかは知りませんでした。しかし、自分の今いる階層よりも上の階層があることは知っていました。

 人間社会と同じように、天国には善意も悪意もあります。しかし犯罪はなく、喧嘩すら見たことがありません。環境の賜物でしょう。ただし、先にも述べたように、悪意を持った人間というのはいます。このことについては、後に語ることになるでしょう。

 

 天国での生活はとても楽しかったことを覚えています。まず、私たちは現世でいう学校のような場所で、様々なことを学びました。教室の中で授業を受けます。この授業の内容から、私は自分がどのように次の人生を生きるかを決めました。これも後に語ることとなります。

 私たちには「先生」がいました。一人の美しい女性で、私たちは彼女から指導を受けました。以前にお話しした中にある「先生」とは、彼女のことです。彼女はある程度先の未来を見ることができたようです。もしくは深い洞察力をお持ちだったのか。彼女がこうなる、と仰ったことは今まですべて的中しています。私もいくつか言葉をいただきました。これも後に語ることになるでしょう。ただ、いただいた言葉はいつどこで戦争があるだとか地震があるだとか、そういった予言めいた言葉ではありません。私の人生に関することです。

 

 天国で学びながら、私たちは次の人生のための力を貯めます。奇跡を起こすための力と言っていいと思います。そしてそれを次の人生で活かします。奇跡を起こせるわけではありませんし、今の私も力を行使できるわけではありません。はっきりと申し上げれば、どうして力を貯めていたのかはわかりません。しかし力を貯めるように指導されました。理由もご教示いただいたように思います。ただ残念ながら、記憶にありません。

 

 天国はとても良いところでした。何よりまず、天国は安全でした。魂に傷を負うような危険とは縁がない、魂を癒して力を貯め、万全の状態で転生できます。その転生先も良いところが保証されています。詳しくは忘れましたが、何親等か以内には必ず天国からの転生者が一人いました。そして、彼らは転生者に助力してくれます。また、転生者一人につき十数人の天国の者が付き、雲の上から見守ってくれています。危険があったりするときには、時に彼ら自身が貯めている力までも使って危険を排除してくれます。グループの中の一人か二人が中心人物であって、他の者は補佐であることが多いです。力の使い方や強弱にも個人差があります。通常は奇跡的な力を行使することは不可能だといっていいでしょう。私は力が強いほうでした。それでも宝くじを当てて欲しいと言われた時、2等を当てるのが限度でした。このことも後で語るでしょう。

 

 ところで、天国へ至る道の最低条件は、「愛」です。愛を知り、他者を慮り、愛すること。愛されずとも愛することはできます、もちろん、愛されない中で愛すること、それは困難なことではあります。愛は世界を救います。あなたが愛で以て一つの小さな世界を救うたび、それは次第に大きな世界を救っていくことでしょう。

 愛を持って生きてください。そして本当の意味で愛しましょう。

前世②

 さて、そんなこんなで私は再び地上で生まれることとなりました。
 幼年期はまったく覚えていません。記憶は、戦地から始まります。第二次世界大戦です。

 最初に断っておきますが、私は軍隊や戦争のことに詳しくはないです。ですから、特に用語において、間違った使用があるかもしれないのをここでお断りしておきます。


 私はどこか南国の小さな島にいました。小隊の分隊長だったと思います。その頃の私の年齢は10代後半から20代前半。私は貴重な青年期を戦場で過ごしていました。小隊を任されていたのは家柄が良かったおかげでしょう。

 途中までは順調でしたが、次第に戦況は悪くなりました。私は戦地の住民を手厚く保護しました。自分たちが利用されているのをある程度把握しつつも、住民が求めるままに食料を与え、自分たちは質素に生活しました。他の隊が住民に乱暴を働くようであればそれを阻止したりもしました。住民たちは私たちが本当はもっといい生活をしているのを隠していると思って覗きに来たりもしましたが、実際を目の当たりにすると、気を削がれたような感じで帰っていきました。少なくともしばらくは、関係は良好でした。

 やがて米軍がやってきました。投降も認められず、私は隊の人間を逃がすために単独で特攻しました。しかし、こんな私にも慕ってくれる人がいたのです。私は結局、隊の人間数名と特攻を仕掛け、そして無残に散りました。志に生きた、良い人生だったと思います。

 

 気が付くとそこは、暗い地の底でした。真っ暗闇の中で、自分の隊の人間がそこにいるのが確認できました。私と一緒に特攻した人間だけではなく、全員でした。私は心底落胆しました。結局、私がしたことは無意味だった、命をかけるという決断のなんとむなしいことか。これからどうなるんだろう。誰かが言いました。何とかするさ。私は答えました。そう言うことしかできませんでした。でもどこか私は楽観的でした。気が抜けたような。解放されたような。

 

 すると、奇跡が起きました。

 

 天が光り輝きました。そして、そこからいくつもの光の柱が降りてきました。チンダル現象のような(そう言えばチンダル現象には天使の梯子という異名があります)、それをもっと明るく、荘厳に、金色に。音楽が流れていました。そして光の中から、たくさんの光り輝く人影が現れ、こちらに向かって降りてきます。
 歓声が上がりました。心のうちに喜びが湧き上がってくるのを感じました。おそらくみんな同じだったことでしょう。

「隊長! あれ!」近くにいた隊員が叫びました。

「だから言っただろう」私は視線を天の光から離せないまま、答えました。「必ず報われるって」私は実際、ことあるごとにそう言い続けていたのでした。

 光り輝く人影はどんどん降りてきて、選んだ一人を連れて天界に上っていきます。私の前にも光り輝く人影が降りてきて、手を差し伸べました。私はその手を掴みたかった、それはもう狂おしいほどに。でも私は、他の人を先に連れて行ってくれるように頼みました。自分で報われると言った以上、報われない隊員を一人でも残すわけにはいきませんでした。人影は頷いて、他の隊員を連れて行きました。私は少し残念でした。多分、私を選んでほしかったのだと思います。そこにいたからではなく、私の生き方自体に価値があったのだと、だから天国へ行けるのだと、そうあってほしかったのだと思います。

 天使の一団はすぐに、それぞれ選んだ人間を連れて天に戻っていきました。するとすぐに、もう一度天から天使たちが降りてきて、同じように隊員を連れて行きました。私は同じくほかの隊員に機会を譲りました。天使たちは隊員を伴って天へと戻り、そして三度降りてきました。一度やってしまうと、機会を譲ることは容易いことで、私は三度機会を譲りました。彼らは帰っていきました。私を含め、その場所には十数名の隊員が残りました。

 再び天使が降りてきました。今度は一人でした。彼女は私の前に降り立ち、こう言いました。「なぜ来ないのです?」

「私は隊員たちに必ず報われると言ってきました。彼らがまだ残っている以上、私が行くわけにはいきません」私は答えました。

「ここに来るのは私が最後です」彼女は言いました。語気は強く、少し怒っているようでもありました。「すべての人を天に迎え入れられるわけではありません。あなたは折角の機会を無駄にするのですか?」

 私は言葉に詰まりました。天国へは行きたい、しかし、自分の言を違えるというのはどうなのだ? 残った隊員たちはどうなる? 

 私は迷いました。天国へ行きたいけれども、この状況ではとても自分から行きたいとは言えなかった。しかし、私が迷っていると、後方から声が聞こえました。

「隊長、行ってください」残された隊員たちがこちらを見ています。どこか諦めたような、しかし優しい目をしていました。

「しかしお前たち……」

「大丈夫です、俺たちは俺たちで何とかしますから」

「すまない」私は天使に自分の手を預けながら言いました。やはり私は天国へ行きたかった。おそらく誰よりも。天使は私の手を引いて天へ昇っていきます。彼らが米粒よりも小さくなるまで、私は彼らを見ていました。

 

 私が天国へ行けたのは、彼らのおかげです。

 

 皆さんはここまでの話を見て、何を思うでしょうか? 感想は三者三様だとは思います。しかしここで私はいくつか、どうしても理解しておいて欲しいことを書こうと思います。

 まず、私自身について。私自身、この人生では心からの善行を積み重ねてきました。しかし、いやだからこそ、死後に天使が降りてくるのを見て、自分が選ばれることを確信しました。天使が降りてきたということは、自分の生きてきた人生が間違っていなかったということであり、そうであれば、隊を率いてきた私は一番に選ばれるはずだ、そう考えていました。だから、まず天使が他の一人の前に降り立った時、私は嫉妬しました。私じゃないんだ、と。自分の前に最初に天使が降り立っていたら、私は天に行く機会を他に譲れたかどうか。

 私はこの時、生前の記憶はありませんでした。しかし、少し考えれば自分がこういう機会を得たのは他者のおかげであることは明白だったでしょう。考える時間などなかったのかもしれないし、他に考えることも多かったのかもしれないです。しかし隊を率いることができたのは出身のおかげだし、それはそこに生まれることを許してくれたたくさんの人々、天使、何より私に自分の順番を譲ってくれた人のおかげです。他者を慮れたのは境遇のおかげです。戦場に於いて志を貫けたのも、私の意に賛同してくれた隊員たちに因るところがほとんどです。私は高慢でした。こんな私を天に連れて行ってくれたことを感謝すべきです。

 次に、多分、この戦時中という時期は、天界もかなりその扉を開放していた時期だったのだと思います。グローバリゼーションが叫ばれて久しい昨今、国のため、というと嘲笑を受けがちではありますが、実際のところは国のために命を賭する、人生をささげるというのは天にとって貴い価値観であるようです。だからこそ、私たちの上にも天使が降りてきてくださったのでしょう。日本のために戦って死んでいった兵隊は、そのほとんどが天に昇れたと思います。実はこの時地に残された隊員たちとも、後に天国で再会できています。

 最後に。もし望外の幸運が舞い降りてきたときは。迷わず受け取るようにしましょう。それが自分に相応しくなければ自ずと消えていくものですし、むしろその幸運に見合うような自分になるためのチャンスだと思ってください。素直になりましょう。素直さは愛されます。やっかみもあるでしょうが、それ以上が期待できます。余計なプライドを捨てる、ということは真にはこういう意味のはずです。私は運よく拾ってもらえましたが、あのまま天に昇る機会を失う可能性だって十分にありました。チャンスは掴んでください。それはあなたのために用意されたものです。苦境にあればこそ、心に留めてください。なぜなら、苦境にある時ほど、自分からチャンスを捨てがちだからです。その時どれほど悲惨な目に合うかは、私がこれから書いていくつもりです。